2009年の年末にネパールのポカラという町に行った。ポカラはエベレスト登山やトレッキングをする人々の基地になっている町だ。
宿泊したホテルにはその家の子供たちが遊んでいた。チェックインを待っていると、中庭の椅子にぽつんと座って、警戒するようにこちらをじっと見ている少女がいた。2−3歳だろうか。
「あの子はね」
父親を早くに失くし、そのホテルで住み込みで働いていた若い母親も最近亡くなり、見かねたホテルのオーナー夫妻が引き取って、そこの家の子供たちと一緒に育てているのだと、ガイドの男性が教えてくれた。
幼い彼女は、すでにオーナー夫人を「ママ」と呼んでいるという。
翌朝トレッキングに出発するため、朝食に降りていくと、少し離れた木戸のところに作業中の「ママ」のスカートを握り締めた少女がいた。
私が柱の陰に隠れて「いないないばぁ」の真似をすると、面白かったのか、木戸に隠れて、ぴょこん、と顔を出していたずらっぽい笑顔を見せてくれた。
「ここに来るたびに写真を撮っているんだけど、僕には一度も笑ってくれないんですよ」
そうぼやいていたガイドの男性に頼んだら、後日写真を送ってくれた。
名前は忘れてしまったのか、そもそも聞かなかったのか、それさえももう忘れてしまった。

*アイキャッチの花の写真はネパール国花のラリグラスLaligurans。真っ赤な石楠花です。